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「……お前があの日、甘いものくれなかったから」
続きを口にしたら、緩い弧を描いていた美織の瞳が、大きく大きく見開いた。
その瞳が、みるみるうちに潤んでいく。
「……ごめんね?」
笑っているのか泣いているのかわからない顔で、美織が言った。
伝えたことを、すぐに後悔した。
息が詰まりそうだった。
愛おしくて、苦しくて、やるせなくて、心臓が痛くてたまらない。
「ね、約束した甘いもの、くれよ」
無理やり笑ってそう言ったら、やけに浮ついた変な声が出た。
「チョコじゃないんだろ? なにくれんの?」
「……」
美織は答えずに、俺の右手に手を伸ばす。
「マリちゃんのマカロン、食べないならちょうだい」
「……? いいけど……」
俺が答えれば、美織は俺の手の中のマカロンを奪って、パクッと一口かじった。
幻のくせに一瞬触れた美織の指先はとても温かくて柔らかくて、目頭を熱くさせた。
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