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マカロンをかじった美織は、悔しいなあ、と独りごちた。
折しもまた冷たい風が、さほど空いていない俺達の間を通り抜けて、俺は目を覆った前髪を掻き上げる。
少しウェーブがかった美織の長い髪は、また少しも風に揺れなかった。
実体がないからだろうか。
でも俺にもマカロンにも、触れることができるらしい。
あまりに適当な設定、やっぱりこれは夢だ。
「私もね、あの日マカロン作ろうとしてたの」
美織は言った。
「それって、俺にくれるため?」
「うん。すっごく甘いの作ろうと思ってた」
「そっか。食べたかったな……」
俺が呟くと、美織はまた「ごめんね」と小さく返した。
「……ねえ、貴哉くん」
「ん?」
「このマカロン、半分こしよっか?」
「え、いいよ。俺、お前が作ったやつ以外、食べたくない」
自分でも信じられない程、素直な言葉がするすると口から零れた。
夢だから、幻だから、言える。
……いや、違う。
生きている内に伝えなかったことを死ぬほど後悔したから言えるんだ。
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