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カキーン──。
クリアな音が、冷たい空の白に溶けた。
フェンス越しにグラウンドを眺めながら、はぁーっと白いため息をつく。
寒空の下、威勢のいい声を上げる野球部。
冷えきった俺の右手には、さっきの赤い正方形。
「こ、これチョコじゃないです。作ったんで受け取ってくださいっ。捨てちゃってもいいので……」
なんて震える手で差し出されたら、さすがに受け取るしかない。
別に、あの子を傷つけたい訳じゃないからね。
ああでも、あの子の名前なんだっけ。
部活の後輩なのに、名前も思い出せないや。
手のひら大の赤いそれに巻きついた白いリボンを、するりと外す。
包装紙を雑に剥がして、中の茶色い箱を開けた。
ピンク色のハート型が三つ。
少しだけいびつなマカロンだった。
一生懸命作ってくれたんだろうな、こんな俺なんかのために。
「………あまっ」
一つ指で摘んで口にほおりこめば、途端に眉間に皺が寄った。
だから、甘いものは嫌いなんだって。
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