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箱の中のマカロンは残り二つ。
それを一つ手に取って、空に向かって勢いよくほおり投げた。
マカロンはフェンスを超えて、やがて空の白と同化して、消えていく。
もう一個のハートも同じように投げてしまおうと、大きく振りかぶった瞬間。
「あー、貰ったもの投げ捨てるなんてひどーい」
手の中のハートマカロンよりも、ハチミツよりも、角砂糖よりも甘い声が、背中をふわりと撫でた。
「………………え?」
この声の主を、俺はもちろん知っている。
知ってはいる、けれど……。
するはずのない声に恐る恐る振り向けば、やっぱり予想通りの人物は、見慣れた制服姿で、確かにそこに立っていた。
…………ウソ、だろ?
なんでお前が、ここにいるの?
「………美……」
『美織』
名前を口にしようとして、でも喉がかあっと熱くなって、息が止まった。
「貴哉くん。私の名前、もう忘れちゃった?」
そんな俺に、美織は少し首を傾けてふんわりとした笑みを向けた。
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