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……忘れない。
忘れられるわけがない。
ちょうど一年前の今日──。
あの日は、朝から特別だった。
まず、休みの日なのに朝七時にぱっと目が覚めた。
起きた途端、思考がクリアになるような、これ以上ない爽快な目覚めだった。
でも、室内なのに息が白くなるほど、やけに寒かった。
それでカーテンを開けてみたら、綿毛みたいな雪が舞っていた。
それが初雪だったからかな、なんだか特別な日になりそうな気がしたんだ。
「バレンタインデーが日曜日でよかったね、お兄ちゃん」
リビングに降りたら、先に朝食を取っていた妹がしょうもない軽口を叩いた。
「ふっ、ナメんな。今年はアテあるし」
「えっ、お兄ちゃん、まさか彼女できたの!?」
「さあね」
──実は夕方、美織と会う約束をしていた。
「バレンタイン、どうせ誰からももらえないんだし、私あげよっか?」
美織がからかうように言ったのは、あの日の三日前の放課後だった。
美織は中学から一緒で、とても仲がいい。
でもそれだけ。
別に俺の彼女なんかじゃない。
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