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「……何それ、同情?」
「ふふふ、どうかな」
意味深な笑みを浮かべる彼女の髪が、少し傾いた太陽を浴びてさらりと光る。
「俺、別にチョコとかいんないし」
「甘いもの、大好きなクセにー」
楽しげに言って、美織は席を立った。
「とびきり甘いもの、あげるから。楽しみにしてて」
バレンタインデーの日の夕方五時に、中学校の裏の公園で待ってるね。
そう付け加えると、ひらりとスカートを翻して、教室を出ていく。
俺がめちゃくちゃ甘党なのを知っているのは、この高校では彼女だけだった。
男が甘いもの好きなんてカッコ悪いから、他のヤツに言ったことなんてない。
そのくらい、俺達は仲がよかった。
あいつは俺のことを、なんでも理解してくれていたし、なんでも知っていた。
……きっと、俺の気持ちも。
俺は中学の頃から美織が好きだ。
その気持ちを伝えたことはないけれど、彼女にはたぶんとっくにバレているんじゃないかと思っている。
そんな美織が、バレンタインデーにチョコをくれると言ってきた。
何かを期待せずにはいられなかった。
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