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──不意に、強めの冷たい風が吹き付けた。
その風は、むき出しの俺の耳を刺して、痛いくらい凍えさせた。
目の前の美織の、制服のスカートが、揺れない。
「………お前………なんで、いるの?」
やっとの思いで絞り出した言葉は、自分でも情けないほど、震えていた。
一年前の今日。
あの日は確かに、『特別』だった。
全てがめちゃくちゃになった日。
この世の終わりみたいな日。
無差別で無意識で無責任な悪意が、何もかもをめちゃくちゃにした。
飲酒運転で信号無視をしたトラックが、全てをめちゃくちゃのぐちゃぐちゃに潰したのだ。
美織の乗っていた自転車も、そのカゴに入っていたお菓子の材料も。
そして、美織も。
そんな悪夢のような出来事を、口にオムライスが入ったまま、受話器越しに聞いた。
「二月十四日だから、かな」
美織の世界一甘い声で、思考をまた現実に戻される。
いや、これは現実なのか?
だって、美織は確かに、一年前に死んだ。
「去年のバレンタインデー、渡しそびれちゃったから」
……でも、そんなのどっちでもいい。
たとえ現実じゃなくてもいい。
美織が目の前にいるのだから。
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