31人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
俺は大きく息を吸い込んだ。
肺いっぱいになった冷えた空気を、ゆっくりゆっくりと吐き出す。
夢でも幻でも、何でもいい。
そう思ったら、
「……なに? チョコでもくれんの?」
ようやく普通に声を発することができた。
「チョコ?」
美織は少し首を傾げた。
「チョコなんて、最初からあげるつもりないけど?」
あの日の綿雪みたいにふわりとした足取りで、美織は俺に近づいてくる。
「ね、マリちゃんがくれたそのマカロン、捨てちゃうの?」
すぐ目の前に立った美織は、俺の手元のハートマカロンに視線をやった。
……ああ、そういえばさっきの一年生、マリちゃんって名前だっけ。
美織以外の女子の名前なんて、あの日から一人も覚えられない。
だって俺は、お前のことしか。
「うん、本人が捨ててもいいって言ってたから」
「甘いもの、大好物なのに?」
「……嫌いになったんだよ」
「えー! なんで?」
「……だって、お前が」
その先を言うのを迷って、一瞬口を閉ざした。
でも、どうせ幻かもしれないなら、伝えてもいいだろ?
最初のコメントを投稿しよう!