苦くてしょっぱい。

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俺は大きく息を吸い込んだ。 肺いっぱいになった冷えた空気を、ゆっくりゆっくりと吐き出す。 夢でも幻でも、何でもいい。 そう思ったら、 「……なに? チョコでもくれんの?」 ようやく普通に声を発することができた。 「チョコ?」 美織は少し首を傾げた。 「チョコなんて、最初からあげるつもりないけど?」 あの日の綿雪みたいにふわりとした足取りで、美織は俺に近づいてくる。 「ね、マリちゃんがくれたそのマカロン、捨てちゃうの?」 すぐ目の前に立った美織は、俺の手元のハートマカロンに視線をやった。 ……ああ、そういえばさっきの一年生、マリちゃんって名前だっけ。 美織以外の女子の名前なんて、あの日から一人も覚えられない。 だって俺は、お前のことしか。 「うん、本人が捨ててもいいって言ってたから」 「甘いもの、大好物なのに?」 「……嫌いになったんだよ」 「えー! なんで?」 「……だって、お前が」 その先を言うのを迷って、一瞬口を閉ざした。 でも、どうせ幻かもしれないなら、伝えてもいいだろ?
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