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真っ赤になってて、次から次に涙を零す切れ長の奥二重。こいつの目がこんな風だって知ってるのは、きっと俺だけだろう。
うずくまったままの世莉の手を取ると、言葉にならない叫びを上げて飛び退きやがった。
だけど、正直離す気にはならない。いったいいつからこうして庭先に座り込んでいたのか――世莉は手だけでなく、全身が冷え切っていた。
「ゆゆ、ゆひ、うひ、くん」
「家入るぞ。風邪ひく」
「ひえっ」
叫び続ける世莉を抱え上げ、玄関へと向かう。
たしか、去年もこうして暴れる世莉を抱えて校内を歩いたっけ。
あれはバレンタインで、世莉が作ったチョコチップクッキーは形こそ崩れていたけど、今まで食べたクッキーの中で一番美味しかった。
「あれ、今日ってバレンタインじゃねえか」
「……そう、だよ」
「今年も受け取ってやろうか?」
「……ないの」
「まじで?」
暴れていた世莉は見る間に元気をなくし、だらりと身体を俺に預けた。
止まっていたはずの涙が、俺の肩を濡らす。
「つ、作ろうと思ったら、おか、お母さんが……」
「あー……わかった。わかったから泣くな」
「うう、ずびっ」
うちの家に連れて帰ろうと思ってたけど、予定変更。踵を返して世莉の家へと向かう。
「わ、わたし家出中……!」
「いいから。黙ってろ」
「は、はい」
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