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頬も鼻の頭も真っ赤な世莉は子どもみたいで色気もくそもない。
なのに、なんでかな。なによりも、可愛く見える。
「世莉」
「な、なな、なに」
「今年は、俺から世莉に」
材料は世莉のだけど、と続けてマグカップを指差す。
バレンタインは、大切なひとにチョコレートを贈る日。
その意味を、毎年俺のためにチョコを用意し続けている世莉にはわかるはずだ。
顔を真っ赤にして俯いた世莉は、両手でマグカップを強く握ったまま答えた。
「ゆゆ、雄陽くん、このホットチョコレートこのまま保存して家宝にしたいのですが」
「早く飲め」
「……ハイ」
くっついてしまうくらいに鼻先をくっつけて言えば、ちびちびと飲み始めた。
「……ゆ、雄飛くん」
「ん?」
「あ、ありがとう……とっても、美味しいよ」
小さな声で零しながら浮かべる表情は、俺しか知らない。こんな風に笑う世莉を、誰も知らない。
「気持ちが、こもってるからな。お前のチョコレートみたいに」
「……いつもまずいって言うくせに」
「知ってるだろ。俺は嘘つきなんだ。――お前限定で」
マグカップに口をつけたまま、世莉は頬を真っ赤にして「嬉しくないです」と零した。
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