バレンタイン・ギブ アゲイン

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ヤベーと焦る俺に、同期は下を向いたまま続ける。 「義理チョコって、パワハラなんだって」 “サイコロステーキって、ステーキって名前付いてるのに成型肉なんだって”と悲しそうに言ったトーンに重なる。 「……」 「は?」と、口から飛び出そうになるのを、すんでのところで飲み込んだ。 また突拍子もないことを… 「男性社員がね、女性社員にチョコを要求するのはパワハラだって、今の社会はそういう風潮なんだって」 知らないの?と詰め寄られ、とりあえず「ごめん」と謝る。 なに、これ?結局、責められてんの? いやいや、でもさ、バレンタインチョコをくれないならないで別にいいし、特別何か欲しいわけでも、してほしいわけでもない。 あ、でも、80円チョコは“当然”と思っていたわけだから、そういう姿勢が見えること自体がパワハラなのか? とにかく… 「悪かったよ!で、この箱は?」 いまだに繋がらないチョコとパワハラと空箱。 あ、それね!とようやくの本題に、同期は顔を上げた。とても晴れやかな顔だ。 「とは言ってもさ、いつもお世話になってる人に何もあげないのも失礼じゃない?だから感謝の気持ちを(そこ)に詰めたの」 ニコニコの中に、ニヤニヤが入り混じっているのは気のせいか?いやー、違うな。 「おまえ、演技下手かっ!!」 「バレた?」 ペロリと舌を出す。 泣いてないとわかってホッとして可愛いと思わされたことで、ちょっと殺意が湧く。 嘘泣きは立派なパワハラだと思う。
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