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数日後、夜重が到着するよりも早く、曰く堂には翔太の姿があった。
「やっと、売る気になったのか?」
「いや、訊きたいことがあって来た」
依然として頑なな態度に、店長は溜息をつく。
「答える義務は無いな」
「何だと!?」
睨み合う。しかし店長には余裕の笑みが浮かんでいる。
「わかった。じゃあ、返答次第ではこの懐中時計を譲ってもいい」
「何を訊きたいんだ?」
キョロキョロと店内を見回し、目的の物を見つけるとそれを指差す。
「あれだろ? 夜重が開けたがってる『からくり箱』って。何で売らないんだ?」
「……」
「そうやってもったいつけて、あいつの興味を引き続けるつもりか?」
「……」
挑発にも反応を示さない――無反応に痺れを切らし、箱の方へと一歩踏み出る。
「その箱には触るな」
すかさず釘を刺され、苛ついて振り返った。
「じゃあ質問を変える。いつまで夜重をこんなところで働かせとくつもりだ!?」
ポケットから懐中時計を取り出し、眼前に突き付ける。
「これがただの時計じゃないことはわかってる。こいつのせいなんだろ? 俺の姉貴が危ない目に遭ったのは! それを夜重も知ってるみたいだった。あいつをこの店で働かせて、一体何考えてんだよ!」
店長は焦点の合っていない虚ろな視線を、遠くの床に向けている。その煮え切らない態度が、ますます自分を興奮させた。
「この時計だけじゃないんだろ? この店に売ってるもの全部、この時計みたいなヤバいもんなんだろうな! そんなこと警察に言ったところで誰も相手にしないだろうし、お前が誰に何を売ったって、別に俺の知ったことじゃない!」
バン!
二人を隔てるカウンターが大きな音をたてる。そのカウンターから身を乗り出し、更に言い放つ。
「夜重がこの店の商品を売ることについて、どう思ってんだよ!? あんたは」
ゆっくりと焦点を合わせたその瞳は、空虚なガラス玉のようだった。どんな辛辣な言葉を投げかけても、この眼にはただ吸い込まれていくだけで、男には神経など通っていないかのようだ。
何を言っても無駄だと悟ると、「クソッ!」とやり場のない怒りを吐き捨て、懐中時計を再び制服のポケットへねじ込んで店を出た。
(あいつが邪魔だ)
帰路をズンズンと歩く。開け方のわからない奇妙な箱。奇妙な品物を売り買いする奇妙な店。そのミステリアスさが、彼女を惹きつけ惑わしているのかもしれない。或いは、その店で店長を務める奇妙な男……
「あんな不気味な男に夜重が!?」
その考えは頭を振って打ち消す。そんなハズは無い! と。じゃあどうすれば彼女は、あの店に行かなくなるだろうか……。
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