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「――うん、そうだよな……。吉村さん、ありがとう。その、今話したこと……」
「わかってる、誰にも言わないから安心して」
言わない、言えるわけがないじゃないか!
鈴木くんはホッとしたような笑みを浮かべた。ベンチから立ち上がる。
「じゃあ、わざわざごめんな」
「ううん、じゃあね。がんばってね」
「ああ……えっと、ありがとう。また明日」
鈴木くんは軽く手を振った。わたしも笑顔で手を振り返す。そのまま鈴木くんは振り返らずに行ってしまった。
完全に鈴木くんの姿が見えなくなると、貼りつけていた笑顔の仮面がドロドロと溶け出す。
何が、がんばってね、だ。バカみたいだ。
帰る気にもなれなくて、ベンチに座ったままぼんやりと香苗のことを考えた。
香苗は成績優勝でスポーツも得意。表彰されることもしばしばだ。
明るくて社交的で、ショートカットの似合う可愛い女の子。わたしの自慢の友だち。香苗はどうかわからないけれど、わたしにとって一番仲が良いのは香苗だった。
でも反面、わたしは香苗がうらやましかった。
香苗は何でもできて、優しくって、みんなから人気があって……。
「……そりゃそうだよ」
そりゃあ鈴木くんだって香苗のこと好きになるよ。だって、わたしだって香苗のこと大好きなんだもの。誰だって、わたしなんかより香苗の方を選ぶに決まってる。いつものことだ。わかってる。
わかってるけど。
「わたしじゃなかったんだ」
口に出して言うと、ますます悲しくなった。
わたしは選ばれなかったんだ。
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