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◇
香苗と鈴木くんがしょっちゅう一緒にいる姿を見かけるようになったのは、それからすぐのことだ。
帰り際、下駄箱で鈴木くんと鉢合わせた。
わたしが、上手くいってよかったね、と声をかけると、鈴木くんは照れくさそうに笑った。
「吉村さん、あん時はありがとな」
「……別に、何もしてないから」
ああ、名前を呼ばれるだけで、まだこんなにうれしくなれるんだなぁ。
今日も香苗ちゃんと帰るの、と訊こうとしたとき、パタパタと足音を立てて香苗がやってきた。
「ごめん、待たせちゃって……あれ、絵美ちゃん?」
その瞬間、気持ちが少しだけしぼんでしまう。……最低だな、わたし。
ふたりを見ていたくなくて、わたしは急いで靴を履き替えた。
「じゃあね、鈴木くん。香苗ちゃんも、バイバイ」
返事を聞かないうちに駆け出した。香苗がわたしを呼ぶのが聞こえたけれど、気づかないふりをした。
香苗に問われたとき、正直に気持ちを打ち明けていれば何か変わっただろうか。今みたいに、こんなに惨めな気持ちにはならなかったかもしれない。
でも、やっぱりわたしにはそんな勇気はないのだ。香苗と向き合う勇気も、鈴木くんに面と向かって拒否される勇気も。
そのことを、いつか後悔するときがくるのだろうか。
……後悔なら、もうしてるかな。
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