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「Happy Birthday みさき」
名刺に印字されたそれは、私が今日一日中欲していた言葉だった。
「よし、今日は早く帰るよ!」
「あ、センパイ、バレンタインは彼氏とデートですか?」
「まあ、そんなとこ。」
付き合って2年になる他部署の彼は、私に気を使わせないためか、甘いものはそんなに食べないからと毎年チョコレートを受け取らない。
仕事を通常の3倍速で終わらせ、名刺の花屋へ向かう。
彼の姿はまだない。
「大和田様ですか?」
ふと、花屋の可愛らしい店員さんに声をかけられた。
「そうですけど、、、」
「こちら清水様よりお預かりしております。」
そこには白いアイリスの花束があった。
花言葉は確か【純粋】【思いやり】そして…
「あなたを大切にします、素敵な彼氏さんですね。」
急いだため既に温まっていた身体がいっきに熱くなる。
「これをお渡しするようにとのことでした。」
彼女の手には、いかにもバレンタイン仕様にラッピングされている包みがあった。
リボンをほどくと中には彼の家の鍵が入っていた。
「いやいや、鍵は危ないでしょ」
店員さんと目が合い苦笑いをする。
丁寧にお礼を済ませると彼の家へと向かう。
鍵を開けたら両手を広げた彼が待っている、とい う訳でもなく、かといって真っ暗な玄関という訳でもなかった。
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