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冬のひと
初雪のその日、一年ぶりに会えた彼女が外出して最初にしたことといえば、屋台で腸詰肉を挟んだ麺麭を買ったことだった。
「なんだか君のイメージじゃないな」僕は言った。
「これぐらいみんなやってるんだから、いいじゃない」
「今年の趣味は買い食いってことかい?」
「そうよ」
「ところで気づいてる? とうとう僕は君の身長を追い越しちゃったんだけど」
「ええ、気づいてるわ」
「初めてあった時は君よりずっと小さかった」
「やだ、思い出に耽ってるわこいつ」
「そりゃ君からすれば懐かしいなんてことないんだろうけどさ」
「とにかく、今年も無事起きれたんだから、うんと付き合ってよね」
「はいはい」
「おや? あれはなんの屋台かしら?」
君は先に駆けていく。この冬だけの時間を、僕とは釣り合わない時間のなかを、惜しみなく生きている。
「春なんか来るな」
「なんか言った?」
「じゃんじゃん食べなよ」
「はーい!」
僕は彼女を追いかけようと、靴底で雪を蹴った。
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