月が落ちる世界

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月が落ちる世界

 空には星空を隠すように巨大な月が浮かぶ。  浜野はそんな月を横目に自宅までの道を歩いていく。  電車もバスも動いてはいるが便は減っている。しかし利用者は減らないもので、いくつかの便を見送ることになったのだ。バスを降りれば日は完全に落ち、月が白い光で地面を照らす時間になっていた。  道の両脇には住宅が立ち並び、転々と街灯が道路を照らす。最近は今日のように雲のない日であれば、街灯なんか必要ないと思えるほどに月明かりが強い。  足を進めれば、月に照らされて出来た自分の影が横についてくる。黒い影は、浜野の体を半分に押し潰したぐらいの形になっている。幼い子供と同じぐらいのサイズとも言えるだろう。  影が自身の動きについてくるという、当たり前の現象を改めて見つめてしまう。  手に持った紙袋がガラガラと音を鳴らす。家まであと数分という距離に差し掛かった頃、空を見上げる女がいた。月光に照らされた髪は艶やかに輝き、鼻歌でも歌っていそうな表情で、空に浮かぶ巨大な月を眺めていた。  何かいい事でもあったのだろうか。     
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