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ある苦悩
私が殻を破った時、強い光が差した。
私が卵から這い出した時、世界は既に出来上がっていて、既に私が存在した。
苔に滴る雫を舐めながら、私は思案した。
目の前の木を登ると、鳥が卵を温めていた。
その時ふと、私にもああいう存在がいたのだろうかと思った。私はひとつ上の枝に腰かけて、鳥の家族を観察することにした。
数日すると卵が孵った。
醜い、しわしわの肌をした小鳥がビービーとけたたましく泣き出した。それが、一匹、二匹と増えて、ついに五匹になる。親鳥は甲斐甲斐しく小鳥の世話をしている。ずっと見ていると、私は大変なことに気が付いた。私の手と、鳥たちの手が似ているのである。
私は喉の詰まりが取れたように感じた。
私は鳥なのだ。
私が飛べないのは、恐らく親鳥が生まれてすぐ傍にいなかったせいであろう。
その内、小鳥たちに美しい緑の羽毛が生えると、親鳥が飛び方を教え始めた。
私も熱心にその様子を見た。
一そしてついに試す時が来た。
枝から背中に意識を集中させ、思いっきり飛び立った。
私は見事な放物線を描いて、向かいの枝に辿り着いた。
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