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リモコンを片手にボリュームを上げた。アリーナツアーのブルーレイ。ヴォーカルがギターがドラムが、体中に降り注ぐ。
「調和を乱す向かい風、か……」
ひとりになりたいとき、わたしはここに足を運ぶ。
お父さんと門限のことで言い合いになって、素直じゃないと叱られた。門限なんていらない。わたしをもっと信頼してくれてもいいのに。
ソファーの上で膝を抱え、きつく目を閉じた。
金曜から土曜へ、日付が変わろうとしてる。けど、気持ちがささくれだって眠れそうにない。大好きな曲のなかに沈んで、憂鬱を忘れたかった。
「アグレッシブな曲聴いてるな」
声とともにステレオの音が絞られた。驚いて顔を上げるとスーツ姿の佐原さんだった。大音量で聴いてたから足音に全然気づかなかった。
「いつからここに」
「たったいまだよ」
佐原圭、二十六歳。少し長めの前髪に切れ長の目。鼻が高く、いつもきりっとした口元は、余計なことを語らない。
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