Prelude

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 日本の自動車業界(カーエレクトロニクス)をけん引する理川電子(Rikawa Electronics Inc.)、通称RE(アールイー)は、わたしのお父さんの会社。  REの社員である彼は、オートモーティブワールドなどの国内外で行われる大きな技術展やセミナー、販売等に関わるセールスプロモーション部で働いている。  会社の跡継ぎとして働くお兄ちゃんとは大学からの友人同士。つい最近まで、半年間わたしの家庭教師を務めてくれた。  あまりに勉強しなさすぎのわたしの将来を案じたお父さんが、佐原さんを家庭教師に抜擢して、わたしは大慌て。某大学に合格しなければ佐原さんが会社を解雇されると聞かされて必死になった。  わたしのせいで出世街道を外れることになったら、目も当てられないもの。晴れて大学に合格してからは会う機会が減ったけど、仕事柄よくうちに出入りしているので、ときどき様子を見にきてくれる。  大学生になって浮かれたわたしが、勉強をおろそかにしないように。お父さんが牽制の意味で佐原さんをよこしているのは気づいてる。  義務感だとしても会いに来てくれるのは嬉しかった。まったく繋がりがなくなってしまったら、寂しすぎるから。  年のわりに落ち着いた雰囲気の佐原さんは、スタイルがよくて顔もわたし好み。ただ、彼女がいる。休日に友人と出かけた先で、ショートカットの綺麗な女性と歩いてるのを見かけた。  彼女が恋人か。そう思ったら、気持ちがしぼんだ。十九歳の小娘より、社会人経験があってしっかりしたオトナ女子ほうが、佐原さんには似合ってる。
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