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魔神との遭遇
曇天。鈍色の風が鋭く吹き荒ぶ中、男はビルの屋上から身を投げた。
中空に放たれた身体は、横殴りの鉄風に流されながらも重力を享受する。
灰色の大地に至る過程、ゴンドラにぶつかり男は跳ねる。
そうして赤い体液をコンクリートにぶちまけた。
「……い。……き、ま……からだ……せ」
なんだか暖かい。ふわふわする。……俺は落ちはずだ。しかし意識はある。死ねなかった?
……それともここが死後の世界というものか? そうであればなかなか悪くない心地だ。白乳色の空間で、ぷかぷか浮遊して漂う感じ。
はあ、なんだか気持ちがほどけていく。
「……い!」
声がする。
「おい!」
うお。「誰? どこにいる?」
「気付いたか。我はここだ」
目の前に、ぼんやりとぐろを巻いた蛇のような輪郭が浮かび上がってきた。しかし実体がはっきりしない。
「蛇?」
「蛇ではないわ」
「じゃあ、なんだ?」
「貴様こそ、人にものを尋ねる前に名乗らぬか」
なるほど。「俺はホシ・マガテ。あんたは?」
「我は魔神アヌース」
うーん。「すまないが、よく聞き取れなくて」
「我はアヌース」
「ワンモアカモン」
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