On the board

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 Rb7#……チェックメイト。  白のルークがコトッと置かれた。横はルークの範囲内、斜めはナイトに押さえられ、前に行ってルークを取ろうにも、ポーンが睨みを利かす。………逃げ場はない。詰みだ。 「あー! また負けた!」  あたしは頭をがしがし掻いて、諸手を挙げた。これでもう4連敗だ。正直言って歯が立たない。 「当たり前だろう。遠子はプロなんだぞ? 今日覚えたばかりの素人に負けるわけないだろう」 「そうだね。ここで負けたら私、廃業しないといけないな」  そう言って微笑んだのは、先程チェスを教えてくれたあたしの対戦相手――――プロチェスプレイヤーである遠子だ。そして遠子の隣、いつもの仏頂面で呆れたように言ったのが、この家の住人、彼女の親友、翔子だ。チェス盤を覗き込んで、顎に手をやる。 「しかし……こう一連の流れを見ても、よくわからないな。駒の動きはだいたい覚えてきたけど……難しい」 「最初は皆そんなもんだよ。たくさんやっていくうちに段々わかってくるんだ」 「その感覚は何となくわかるんだけどねぇ……」  スポーツをやっていた人間としてそれはわかるけど、こういった頭を使うことは得意じゃないのよー……。もちろん、遠子に勝てるとは思っていないけど、やるからには勝ちたい。あたしは唇を尖らせて黒のキングをつまむ。……それに、負けるのは悔しい。負けてばっかりだから余計に悔しい。 「んー、もう1回!」 「お、もう1回やります? いいですよー。そうですね、今度はもう1つのルークと……ビショップも落としますか。それなら勝てるかもしれないでしょう?」 「飛車角落ちってこと? 随分なハンデだな。まぁ、そうでもしないと勝つ見込みがないか」 「Grazie! よし、勝つぞー!」
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