42歳 中間管理職

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42歳 中間管理職

「クッションというよりフィルターかな」  現実というのは案外尖っていてね、と彼は机の上のサラダせんべいを割る。 「仕事だろうが家庭だろうが、あらゆる棘は直接受けると過度に傷ついてしまうんだ。だからフィルターが必要なんだ。クッションだとその衝撃を受けすぎてしまって破れてしまう。多くの中間管理職は勘違いしているんだ。『自分が下を守らなきゃ。上を支えなきゃ』って。それじゃ自分がやられてしまう。そうじゃない、薄めるんだ」  このコーヒーと一緒だ、と彼はシュガースティックの口を切る。 「苦みを薄めるために砂糖を入れる。まだ苦ければ二本目を入れる。そうして飲みやすくして、相手に届ける。だから中間管理職は何人もいるんだ。一人で全部やろうとする人間は中間管理職には向いてない。むしろ役員クラスのほうが向いてるだろう。ただ日本の今の会社制度だとそんなこと勿論許されない。中間管理職をすっ飛ばして社長になれたりしない。そこが国の発展を止めているような気がしてならないね」  コーヒーを一口啜る。  カップをかちゃりと置いて、話を戻そうか、と彼は言った。 「色々言わせてもらったが、つまり、私が言いたいのは」  彼はまだ開いていないシュガースティックをタクトのように振るって、にやりと笑った。 「好きにやれ、若者よ」 
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