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17歳 帰宅部高校生
「僕の彼女、可愛いんですよね」
教室の椅子の後ろ二本の脚で、揺りかごのようにゆらゆらと座りながら、彼はそう言った。
「くりくりした瞳やつやつやの髪、すらっとしたプロポーションもさることながら、ちょっとした時の仕草とか、自分をよく見せようと頑張るところとか、ほんと可愛いんですよ。この間も『私には裏があるけど、あなたには見せないから』って言ってて。そのセリフめっちゃ可愛くないですか」
くるくると指先でペンを回し、目の前に置かれたプリントには何も書く気配を見せない。
「頭のいい子なんです」
彼は揺れながら言う。
「裏表のない人間なんていません。僕も、あなたもそうだ。でもみんな自然とそれを隠して生きてる。私は裏表のない人間ですよーって」
カチカチカチとボールペンの芯を出し入れする。
「本当に裏を隠すつもりがあるなら、裏があることすら言わないほうがいい。それも全部わかって言ってるんですよ、彼女は。試してるんです。そう言ったら僕はどんな反応をするだろうか。もっと穿ってみるなら、私の隣に足る存在だろうかって。ほんと可愛いですよね」
試してるんです、ともう一度繰り返す。
「彼女は自分の感情を試してるんです。私はこの男を好きでいられているだろうか。このセリフに対する僕の反応を、いや、どんな反応をしても僕のことを愛することができるだろうかって、不安でもがいてるんですよ。『初めて』っていうのは何でも不安なものですから」
カチッ、と彼はボールペンの芯を出した。
「こんな風に言ってますけど、僕はちゃんと彼女のこと好きですよ」
目の前の用紙に彼はさらさらと自分の名前を書く。
「彼女の可愛い初恋を、できることならいつまでも守っていたいと思っています」
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