彼らの店はひどく寒い

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 彼らの店はひどく寒い。  北向きである上に一日中陽が当たらず、しかもガラス戸がいつも開けっ放しだからだ。  店の中央には大きな平台があって、商品である《織り物》が並べられている。  店の奥には黒く塗られた低いカウンターがあり、店番の三毛猫が寒そうに丸くなっている。  彼は寒さに耐えきれなくなると。店を放り出して向かいの甘味屋に行く。そして、栗ぜんざいと「マタイ受難曲」を注文する。驚いたことに、その店は甘味屋なのにバッハの完璧なレコード・コレクションがあるのだ。  焙じ茶をはふはふ飲んでいるうちに――なにしろ彼は猫舌だ――、日は暮れてしまうので、彼はあたふたと店に戻って明かりをつける。  ぽっ、と裸電球が灯って〝織り物〟を照らす。  彼はまたカウンターの上に座り、薄目を開けて半分だけ眠る。  冷えてくるとカウンターの下からワイルドターキーのボトルを取り出し、一口ひっかける。  九時に閉店の札を出し、ガラス戸を引き、鍵をかけてカーテンを閉める。  電灯を消して二階に上がり、妻の寝床に潜り込む。
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