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〝織物〟を作っているのは彼の妻だ
〝織り物〟を作っているのは彼の妻だ。
彼女はその材料を路上から拾ってくる。
たとえば、抜け毛、干からびた蚯蚓、靴紐、ちぎれた蔦、ちぎれたベルト、ちぎれた紙バッグの持ち手、ちぎれたリボン、ちぎられた羽根、破られたコンビニのレシート、ねじられた煙草のパッケージ、ガムの包み紙――当然のことながら、吐き出されたガムは使わない――、落葉、ゴムホース、蜘蛛の糸、ため息、地縛霊、レジ袋、古新聞、古雑誌、風に飛ばされてきた誰かのTシャツ、ストラップ各種、空き缶各種、後ろ髪各種、ペットボトルのラベル(ペットボトルはリサイクルに出す)、ステ看板、残留思念、猫のヒゲ、迷子になって行き場を失ったメール、などなど。織れるものは何でも使う。
それらを拾うために彼女は毎日町を歩いている。
材料集めに半日をかけて、収穫物は壺の中に蓄えておく。そして、壺から無雑作に取り出しては織り上げていく。
織り上がったものは日陰で干して、必要に応じて織り足していく。織り込めば織り込むほど、作品は小さくなる。
出来た作品は一個千円で売る。
日に三つか四つ売れる。
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