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若者は武家の長男に生まれたが、父親を早くに亡くした。
その後、伯父に引き取られ、美しかった彼の母は、伯父の妻となった。伯父と母の間には、男の子が生まれ、彼を他所に温かい家族が出来上がった。
彼には、父が死んだわけも知らされなかったが、親戚の冷遇から父が何か騒動に巻き込まれたのだろうと察した。
伯父も彼には冷たかった。
食事は二間続きの座敷であったが、伯父と母と弟は上座の座敷で食事をとり、彼は下座の座敷で食事をとった。彼と弟は人一人分しか離れていないのだが、座敷の敷居が、彼の心を遠くに追いやった。
七つになったころ、自立心を育てるためという理由から、物置に手を入れた1畳半程の離れで寝起きするよう言われ、食事も次第に離れで取るようにしつけられた。
彼もそれはそれで気が楽であった。
彼と家族の間の溝は深まり、彼もなるべく家族のいる時間は母屋に行かないよう心掛けた。
滅多に母屋に行けない彼は、風呂に入ることがなく、一度ひどく下女に臭いと嫌がられた。それからは、朝早く起きて井戸で水浴びをした。
楽しみは、自分の父が所蔵していた詩を読む事であった。特に白楽天を好んで読んでは、心奪われた。
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