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歳が十になると食事も出なくなった。
彼は夜な夜な台所へ行き、イモや残飯を漁った。残飯もない時は三日程食わない時もあった。だから、食べられる時には大いに食べた。
しかし、ふと、がつがつと食べている時に、自分がこそ泥のようにも、飢えた犬畜生のようにも感じ、恥じ、情けなさに涙することもあった。
これが、他の家庭を知っている者であったら、この状況に甘んじることはないだろう。
しかし、彼にはこれが初めての家族であり、母親の「置いてもらえるだけでも有難い」という言葉を真に受けていた。
加えて、自分の父親が親戚に何か迷惑を掛けたようだと思っていたから、尚更に、贖うことはなかった。
しかし、歳が十六になった時、彼はついに耐えかねて、母親へ直談判した。
「自分がもっと努力をするから、どうか人並みの生活をさせてほしい」
と勇気を出して言った。
「人並みの生活とはどういう生活か」
彼には、人並みの生活が分らなかった。弟と同じほどというのは望み過ぎだろうと思った。長く離れに隔離された生活で、彼は罪人のように自分を卑下する癖が付いていた。
彼が答えられず黙っていると、ふいに母親が涙を流して、
「何とかお前も一緒に連れてきたのに、お前は道端で飢え死んだ方が良かったというの。私を悪者のように言わないでほしい」
その言葉に何も返せずにいると、
「お前を見ていると、お前の父親を思い出して辛い」
これが、この親子の最後の会話となった。
彼は自分がそんな風に母親を傷つけているとは露ほども思わなかったから、この言葉は彼にひどく刺さった。
家を出たのは、この次の日の朝であった。
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