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山の中腹までは、馬二頭分ほどの道がうねるように続いていた。彼は特に景色を見るでもなく、淡々と歩を進めた。雪はくるぶし程で、人の行き来があるのか道脇に雪が除けてあった。
中腹まで来ると大きな門があり、どうやら寺の様であった。
この山は恐らくこの寺が管理しているであろうし、先へ進む許可を得ようと寺を訪ねることにした。
雪が除かれた敷石を進み、傾斜のきつい石段を上ると小僧がいて、彼は簡単に来た理由を説明した。
少し門で待ってから、小僧に連れられて宿坊の一室へ連れていかれると、あろうことか老僧が酒を飲んでいた。
狡猾な鷹のような目をした僧だった。
若者が僧の恰好をしていたことから、どこの宗派かと聞かれた。
彼は正直に、町で飢えていた僧から買ったのだと話した。僧の恰好をしたのは、経を上げる真似事をして、路銀を稼ぐためである。
「僧衣を買う金はどうした」
と老僧が聞いたので、
「父親の所蔵していた書を少し売りました」
と答えた。
「それではその書を読むことはもうできまい」
と老僧がいうので、彼は、
「蝸牛角上何事を争う
石火光中に此の身を寄す
富に随い貧に随いしばらく歓楽す
口開いて笑わずは是痴人」と暗唱し、「書は、心に留めております」
と答えた。
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