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東は、不意に窓辺に立ち、もう一度女の部屋の裏窓を見た。
女の髪が地面に広がっているのが見えた。
と同時に、その周辺には赤い液体が広がっているのも見える。
テレビはつけっぱなしなのだろう。
でも聞こえてくる音は「笑点」の大喜利をやっている音ではない。
まさかテレビのチャンネル争いが元で、女が大下に殺されたのではないだろう。
東には分かっていた。
要するに金づるだったのだ。
大下の死体からは、大量の血液と、マグナムの弾丸と共に、はした金がその懐から発見されるだろう。
女が大下のようなゲスのために体を売って稼いだ金が、全財産見つかるだろう。
”だけど、殺さなくてもいいだろう”
それが人殺しの自分の言うセリフじゃないことはよくわかっていたが、東の流儀は、女の命を救ってこの腐った裏街から女を脱出させてやることに、何の役にも立たなかったという事だけが、歴然としただけだった。
警察は言うだろう、殺されても仕方のない馬鹿な女。
きっと世間もそう言う。
この裏窓から一瞬、東と目を合わせた時の女の目。
そこには、幸せを待ち望む無意味な光があった。
自分が幸せになれると勘違いした女の希望があった。
その時、東は、思っていたことをあの時、大声で言ってやればよかったと思った。
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