優しきドラゴン、空へ

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優しきドラゴン、空へ

『――王子は姫の手を取り、必死で階段を駆け下りた。  背後からドラゴンのいびきが聞こえる。  起こさないように足音を忍ばせながら、それでも大急ぎで、二人は階段を駆け下りた。  城から出ると、王子は姫と一緒に馬に飛び乗り、一目散に駆け出した。  駆け出してしばらくすると、ドラゴンの羽音が聞こえた。  早く、早く、急がなくては。森の中に入れば姿を隠せる。  王子のこめかみに汗が滲んだ。腰に回された姫の手がわずかに震えている。  「大丈夫、大丈夫」  そう繰り返して、王子は馬の足を速めた。  森の入り口まであと少し。  先ほどより近くでドラゴンの羽音が聞こえた気がした。  絶望的な地響きと、空を切り裂くような鳴き声。  王子は全速力で馬を駆り、森へ飛び込んだ――』  通い慣れた道を辿るように、私の目は物語を追っていく。  何度も読んだ。一字一句、間違えずに諳んじられるくらい。  ドラゴンにさらわれた姫。  そのドラゴンはとても強く、どんな屈強な騎士も返り討ち。  その姫を助けるために冒険に出る王子。  そして王子は姫を助け出す。  典型的な冒険譚。  王子と姫は国へ帰り、幸せに暮らす。  では――ドラゴンは?
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