スウィート・ブラッディ

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「吸血鬼って本当に居ましたのね」  真っ赤な傘を差した女が、透明感のある声で言った。傘に当たって弾ける大量の雨粒は、バラバラと飴玉が落ちるような音を奏でている。  ……最悪だ。まさか一般人に見られるだなんて。  こんな大雨で嵐とも呼べそうな天候の夕方に、出歩いている物好きが居るとは思っていなかった。ましてや、薄暗くて治安の悪そうな路地裏なんかに。  俺は血の気の失せた顔で気絶する男を放って、女に飛び掛かった。両肩をがしりと掴み、冷たい混凝土の壁に押し付ける。女が持っていた傘が地面に転がり、雫を弾けさせた。 「……どうする。今見た事を誰かに報告するか?それとも今この場で助けを呼ぶか?」  上品そうな容姿に、艶やかな長い黒髪を持つ女を睨みつける。  どちらにせよ殺すつもりだった。せっかく見つけたお気に入りの餌場だ。それを簡単に手放すのは惜しい。  俺の正体を見た目の前の人間は、弱そうな女だ。怯えて何も答えないか、もしくは甲高い叫びでもあげるだろう。そうしたら即刻殺してやる。 「あら、何でそんなことしなければならないのかしら」
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