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「このウソツキ、が……っ」
掠れた声で文句を言う市敬は、しかし、ぐったりと身体を楓貴の腕に預けていて、拳を彼の胸に叩きつけることもできないぐらいに消耗している。
「うん、ごめんね、イチ」
もう完全に童貞なんかじゃなかったことバレバレだったね。
てゆーか、あんまり言うともっと怒りそうだから言わないけど、女の子だけじゃなくて、男も結構経験済なんだよね、実は。
これでも、実の兄をそういう意味で好きだなんていけないことだ、って悩んだ時期もあったから。
異性に興味が持てないなら、同性なら他の人を好きになれるんじゃないかとか、いろいろ試してみたりもしたんだけど。
どうしてもどうしても、イチ以外の人を好きになれなかったから。
「イチ、喉痛くない?何か飲む?」
彼とは違う、柔らかな茶色のくせ毛を撫でる。
頭を撫でるなんて、今までの市敬なら絶対にさせてくれなかっただろう。
だから、ずっと触れてみたかったのだ。
市敬はほんの少し煩そうに頭を軽く振ったけれども、払いのけるまではしなかった。
楓貴のしたいように触らせてくれている。
「水、…と煙草」
「水は持ってきてあげるけど、煙草はあげられないな」
「んだよ、どっかの女みてぇに事後の煙草は失礼だから止めろとか言うんじゃねえだろーな」
唇を尖らせる市敬に、楓貴は少し笑って言う。
「そんなにカサカサの声だからだよ。煙草は余計喉痛めるだろ?口寂しいなら、煙草の代わりにキスしてあげるけど?」
顔を覗き込むように近づけると、チッ、と舌打ちされた。
「水。冷蔵庫の中に入ってっから」
揶揄うような誘いは、あっさり無視される。
でも、確かに喉を潤すものが必要そうだ。
楓貴は、名残惜しげにもう一度その髪を撫でて、ベッドから立ち上がる。
その辺に放り投げた下着とズボンだけを手早く身につけて、キッチンに向かった。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出しながら、このまま寝室に戻ったら、市敬がいなくなっていたらどうしよう、と急に不安になる。
弟に抱かれたことを後悔して、どこかに消えてしまってたら。
そもそも、この出来事が全部夢だったら。

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