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天才ハッカーと呼ばれる俺でも、今日の案件は厄介だった。
ようやく仕事を終え、自宅に戻ったのは真夜中だ。
疲れで朦朧とした意識の中、玄関の鍵を開け、明かりをつける気力もなく、奥の寝室へとたどり着き、ベッドに倒れこんだ。
泥のように眠るとは、このことだろう。
自らの正体をなくし、深い夢に沈む。
眩い光が寝室の窓に注がれ始めた時、ようやく目を覚ました。
昨日、どうやって自宅へ戻ってきたのか、うっすらと思い出しながら、体を起こす。
自分の身体に、毛布がかけられていた。
昨晩は、毛布をかける気力もなかったように思うのだが。
ベッドから起き上がり、まずはシャワーでも浴びようかと寝室のドアを開ける。
その瞬間、懐かしい香りに包まれた。
味噌汁の香りだ。
キッチンから響く、何かを刻む包丁のリズミカルな音。
まるで、実家に戻ってきたようだ。
母親が来ているのか。
いや、俺の住所は知らないはず。
おそるおそるキッチンへ近づく。
何者かが、こちらに背中を向けて、料理を作っている様子。
レースのエプロンを身につけ、短めのスカートから伸びるすらりと長い脚。
程よい肉付きのふくらはぎには紺色のハイソックス。
膝から太股にかけては艶かしい曲線を描き、柔らかく触り心地の良さそうな肌質。
思わずため息が出てしまうほどの美しさ。
理想の脚だ。
そして、この脚には見覚えがある。
「目覚めましたか」
くるりとふりかえったのは、バーコード頭で口ひげを生やし、眼鏡をかけたオッサンだった。
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