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蠱惑の歌声
心がとける。
その歌声はあまりにも美しく蠱惑的だった。真剣にその歌を聴いたのならば、心とかされない人などいるのだろうか。
私が気まぐれに館に招いた彼は、数年に一度この街を訪れるオペラ歌手だ。
舞台に立っている時は誰にも気にも留められず、歌を聴いている人はいなかっただろう。私もそうだった。けれどもオペラグラスを覗き込んで、目に飛び込んでくる彼の容姿はあまりにも美しかった。
彼を愛でようと館に呼び、一応、と歌を披露して貰ったのだけれど、その声は容貌以上に美しい物で、何故今まで気づかなかったのだろうと、そう思った。
もしまた彼がこの街に来たら、その時もまた館に呼ぼう。
けれども、彼は二度とこの街を訪れなかった。
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