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プロローグ
月明かりが辛うじて射す路地裏に怒鳴り声が響き渡る。
「おらぁ! 逃げんなやッ!!」
怯える男の胸倉を掴みながら町娘風の女は乱暴に言い放った。
苦しそうに?く筋肉隆々の大男の足は徐々に地面から離れていっている。
……そう。あろう事かその女は片手で男を持ち上げているのだ。
『もう、お前にはちょっかいはかけない! だから……い、命だけは……』
懇願する男に女は徐に手を離した。
そして腰を落として男と目線を合わせると、片手に持っていた得物(ナイフ)を男の首元に突きつけた。
「有り金全部置いてけ。そしたら見逃したる」
『ひぃッ!』
男は青ざめ、慌ててポケットから皮袋を取り出して女に差し出す。
女は乱暴に皮袋を奪い取ると中身を確認し軽く舌打ちした。
「シケとんなー」
不満そうな女の表情に男は怯えながらも事の行く末を見守っていた。
「しゃーないけど、これで見逃したるわ。ほら行けッ」
女はそう述べ、追い払うように手を払った。
すると男は一目散に路地裏の奥へと消えて行った。
…………。
男の姿が見えなくなった所で女は立ち上がり、赤いメッシュが入った黒髪を後ろで束ね直した。
そして路地裏の隙間から見える夜空を見上げ、何故か溜息を漏らした。
「はぁー。何で私がチンピラみたいになってんねん」
…………。
「まあ、ええわ。とりあえずこれで飲み直すか」
呟くようにそう述べると、戦利品を片手に女は賑やかな夜の街へ消えて行った。
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