一縷の望み

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「あなたと出会えて、本当に良かったわ」 ベッドに横たわる夫の頬に触れながら、語りかけた。 夫は、2日前に交通事故に遭い、入院をしている。 手術は成功したが、峠は今晩だと医師は言った。 医師の険しい表情から、私は確信した。 夫は、かなり厳しい状態なのだと。 まさかあなたの方が先に逝くなんて、考えもしなかった。 私の方が先に逝って、あなたを待っていようと思っていたのに。 覚悟をするわ。 あなたに何が起きても、あなたを受け入れると。 今夜は、あなたの側にずっとおります。 でも、あなたの側にいられる時間に限りがあります。 ですから、あなたとの思い出を回想しましょうか? 思い返せば、あなたはよくこんな私を受け入れてくれましたよね。 あなたが私を受け入れ、それから結婚して20年が経ちました。 あなたとの出会いは、忘れませんよ。 あれは今で云う、ナンパになるのでしょうね? 休みの日に私が近所の大きな公園をジョギングしていたら後ろから追いかけてきたんですよ。 以前にもあなたに話しましたが、あの時は本当に怖かったんですからね? だって私が普通にジョギングしていて、後ろから知らない人が追いかけてくるんですよ? 当然、男性のあなたの方が体力はありますからね。 私は体力尽きて、あなたに捕まったわ。 そうしたら、あなた私に言いましたよね? 「お茶でもしませんか?」って。 それが、あなたとお付き合いをするきっかけになりました。 あなたとの距離を縮める事になったのは、やはり共通の趣味であるジョギングでしたね。 学生時分からマラソンをやってましたから。 一緒に週末の休みには、いろいろな場所に走りに行きましたね。 ときには、マラソン大会にも一緒に参加しました。 あなたは、確かダイエットをきっかけに社会人になってから始めたと言ってましたが、随分と痩せましたよね。 お会いした時には、お腹周りがポコっと出てたのに、あなたとお付き合いして1年くらい経った時には、もうすっかり引き締まった体つきになって。 そうそう、思い出しました。 ウフフッ。あなたったら。 プロポーズの言葉。 私、笑っちゃいましたね。
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