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「これを、水仙の部屋へ持っていって頂けるかしら。」
食堂で、ワゴンに乗った食事を前に口が閉じなくなる。真っ白なワゴンは二段に分かれており、隙間なく料理が並んでいた。その匂いは空腹の私の胃に大ダメージを与える。コーンスープやトマトソースと思われる匂いが想像力を掻き立てていく。ワゴンを押して進むほど、お腹から苦痛の叫びが上がった。
「椿さん?食べちゃいけませんよ?」
マーガレットさんの注意が少し遠くに聞こえる。溢さないように、食べないように、気を付けつつワゴンを押していく。ゴロゴロとワゴンの車輪が鳴らなければ、私のお腹のグルグルという雄叫びが無人の廊下に響いたことだろう。
「えっと、確かこの辺り・・・・。」
私は部屋をノックした。返事はない。
「水仙さ・・・じゃなくて、お嬢様。お食事をお持ちしましたー。」
声をかけると虫のような小さな声が聞こえた。
「・・・・あ・・・ます。」
「・・・入りますね?」
扉を開いてワゴンを押す。相変わらずカーテンは閉ざされていて明かりは扉から入る廊下のもののみだった。少ない明かりを頼りにテーブルまでたどり着き、料理を並べていく。その間、水仙お嬢様はずっとこちらを見ていた。なんだか、マーガレットさんとは違ったプレッシャーを感じる。まるで、異物を追い出すような視線に私の手は少しだけ焦ってしまう。
「えっと、失礼します。」
料理を並べ終えて、私はさっさと部屋を出た。
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