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思わず視線を素早く春音さんへ向けると、彼はリヒトの方を見て戸惑っていた。
「ちょっと、それいっちゃダメだよっ......」
「本当なんですか?春音さん」
「......まぁ、確かにあの1週間、ほんとに嫌われちゃったのかなって思うくらいやなことされたかなっては思ってるけど...」
どういうことだ?よくわからない。オレは話を把握しきれずに押し黙ることしかできなかった。
「...僕も連れがいるので、そろそろ退散します。先程は非礼を失礼しました。......ハル、後で電話するからね」
「あ、うん......」
リヒトはそう言ってオレに軽く会釈をし、春音さんの頭を優しく撫でて友人の元へ帰っていった。
リヒト達がいなくなって、あまり人気のない退場門付近でオレたちはどうしようもない空気になってしまった。
おかしくなっていた春音さんは治ったのか、オレへの態度が少しよそよそしくなっている。やはり何かしてしまったのだろうか。
とりあえず、こんなところで時間を無駄にしても仕方ないだろう。
オレは動かなそうな春音さんの腕を優しく掴んで駅へ戻り、春音さんの地元駅─つまり会社の最寄り駅─まで帰った。
駅を出て、会社付近のカフェに入る。静かになってしまった春音さんを席で待たせて、アイスコーヒーとカフェラテを買って戻る。
コーヒーを春音さんに差し出すと、気まずそうに感謝を伝えられ、オレは悲しくなった。
無意識に春音さんの手を取ってしまう。
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