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かび臭い土の匂いと
濃厚な青臭さがやけに鼻につきまとう。
踏みつけた小枝の折れる音に
鼓動が大げさなほど跳ね上がった。
晩秋とはいえ
背の高い常緑樹の密生する森の中はどんよりと暗く
おまけに昼間だというのに霧が立ち込めていて
すこぶる見通しが悪い。
視覚の代わりに研ぎ澄まされた他の感覚が、
この森の不気味さをひしひしと伝えてくるようだ。
(それにしても……)
生まれて始めて眼にした陰鬱な景色を見回して、
少女は以前物語で読んだ漆黒の森というのを思い浮かべた。
友人のエミィ・ロブサートに借りた本だ。
農業を生業とする生家は貧しかったので、
少女が読むことのできる本といえば、
もっぱら魔物や物の怪、魔獣といった怪しげな生き物が登場する内容のものだった。
つまり、
エミィの嗜好が極端にそちら寄りだったのだ。
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