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雨は随分小降りになったようだ。
この分なら朝には降り止んでくれるだろう。
強張った身体をほぐしながら顔を上げると、
枝葉の切れ間、
更に重い雲に切り抜かれた空に
上弦の月が鈍い光を放っているのが見えた。
紫紺の空に凛然と輝く美しい姿。
幾度となく慰められた慈悲深い輝き。
脳裏に焼きついたものとは
どこか違って見える月を見上げていると、
胸に熱いものが込み上げてくる。
リリアは切なげに瞼を伏せ
きゅっと奥歯を噛み締めた。
自分で決めたこととは言え、
好きで娼妓になるわけではないし、
望んで故郷を離れたわけでもない。
気丈に振舞っていても――
いや、振舞っていなければ、
暗澹たる思いに押しつぶされてしまいそうなのだ。
家族の暮らしが楽になるのなら、
それは幸せなことだと。
自分は不幸ではないのだと。
思っていなければ救われない――
暖かな涙がひんやりと冷たい頬を伝う。
リリアは指先でそれを拭った。
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