155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
(うじうじするのは性に合わないわ)
冷え切った空気を胸いっぱいに吸い込んで、
じめじめした気持ちを吐き出す。
「よし」と頷いて踵を返した。
その時ーー
不意に背後から
誰かに声をかけられたような気がして、
リリアは後ろを振り返った。
けれど、
どんなに眼を凝らしても人の姿は見当たらないし、
耳を澄ましてみても、
小屋の中を反響するヴァンのいびきと、
雨音が聞こえるばかりだ。
(気のせいだったのかしら……)
もう一度、
樹木の陰や茂みの奥へと眼を向けるが、
やはり変わったところなど
見当たらないように思える。
気のせいかと、
小屋へ入りかけたその時、
再びあの声が耳朶を打った。
いや――
頭に直接語りかけてきたと表現する方が
正しいかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!