姿なき声

4/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
(うじうじするのは性に合わないわ)   冷え切った空気を胸いっぱいに吸い込んで、 じめじめした気持ちを吐き出す。 「よし」と頷いて踵を返した。 その時ーー 不意に背後から 誰かに声をかけられたような気がして、 リリアは後ろを振り返った。 けれど、 どんなに眼を凝らしても人の姿は見当たらないし、 耳を澄ましてみても、 小屋の中を反響するヴァンのいびきと、 雨音が聞こえるばかりだ。 (気のせいだったのかしら……)   もう一度、 樹木の陰や茂みの奥へと眼を向けるが、 やはり変わったところなど 見当たらないように思える。 気のせいかと、 小屋へ入りかけたその時、 再びあの声が耳朶を打った。   いや―― 頭に直接語りかけてきたと表現する方が 正しいかもしれない。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加