姿なき声

9/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
『出して……れたら……』 「…………あなたは誰なの?」 リリアは眉間に皺を寄せて、 樹木しか見えない暗がりに向って尋ねた。 しかし 森閑としたその空気を震わすものはない。 いつの間にか葉をくすぐる雨音は止み、 代わりに霧状の飛沫が視界を曇らせている。 「どこに居るの?」 「出してくれって。どこから?」 「応えてくれなかったら、 出してあげられないわよ?」 矢継ぎ早に問い掛けると 『もう少し……』という声が返ってきた。 (もう少し? 先ってことかしら?)   そう思い少しばかり進むと、 ぼんやりと淡い緑色の光が見えてきて、 さらに足を進めた辺りに、 リリアたちが野営しているものより 幾分か小振りな小屋がはっきりと姿を現した。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加