姿なき声

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「そこにいるの?」   出入用の穴はポッカリと口を開けている。 声の主がここに居るのなら 閉じ込められているわけではなさそうだが。 (縛られているのかしら?) などと思いながら、 リリアはそろりと近づいて中を覗いてみる。 が、中は真っ暗で何にも見えない。 「ここではないの?」 言いながらリリアは、 背中を丸めて小屋の中を覗き込んだ。 不安定な体勢を支えるために、 ほとんど無意識に小 屋の外壁に手を置く。 ――その時。   まるで雷に打たれたような衝撃が指先から、 脳天とつま先へ向けて瞬時に駆け巡った。 もちろん雷に打たれた経験はないけれど。 「きゃ――っ!」   ほとんど声にならない悲鳴をあげると同時に、 中から突風が噴き出してきて、 華奢な体躯は 自身が弾丸にでもなったかのように あっけなく後方へ弾き飛ばされてしまった。
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