156人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも、
娯楽と呼べるものの乏しかった
ソフィエル村での生活で、
読書は少女のささやかな楽しみの一つであった。
闇に潜む漆黒の森というのは、
かなりの頻度でそれらに登場していたのだが、
『闇の最奥へと誘うかのような森』
というものを思い描くには、
地平線まで見渡せるほど広大な
田畑の広がる土地に暮らす少女の想像力では、
やはり限界があったようだ。
いま足を踏み入れている森の不気味さたるや、
体中に纏わり付く
じめじめと湿った空気に胸が苦しくなり、
不穏な生き物が息を潜め
こちらを窺っているような
錯覚さえ覚えるほどだ。
エミィがこの場に居たら
踊りださんばかりに喜んだことだろう。
「おい。お前!」
エミィにも見せてあげたかったわ。
と残念に思いながら、
不気味な静寂に潜む気配を探していた少女の耳に、
野太い怒鳴り声が飛び込んできた。
最初のコメントを投稿しよう!