陰湿な森

3/17
前へ
/421ページ
次へ
それでも、 娯楽と呼べるものの乏しかった ソフィエル村での生活で、 読書は少女のささやかな楽しみの一つであった。 闇に潜む漆黒の森というのは、 かなりの頻度でそれらに登場していたのだが、 『闇の最奥へと誘うかのような森』 というものを思い描くには、 地平線まで見渡せるほど広大な 田畑の広がる土地に暮らす少女の想像力では、 やはり限界があったようだ。 いま足を踏み入れている森の不気味さたるや、 体中に纏わり付く じめじめと湿った空気に胸が苦しくなり、 不穏な生き物が息を潜め こちらを窺っているような 錯覚さえ覚えるほどだ。 エミィがこの場に居たら 踊りださんばかりに喜んだことだろう。 「おい。お前!」 エミィにも見せてあげたかったわ。 と残念に思いながら、 不気味な静寂に潜む気配を探していた少女の耳に、 野太い怒鳴り声が飛び込んできた。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

156人が本棚に入れています
本棚に追加