姿なき声

18/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
「ねえ、何か音がしない?」 耳を澄ますと、 確かに音が聞こえた。 「そうですね……何の音かしら?」   枝の擦れる音に重なって聞こえるそれは―― 「アラベルさん。 あたし……ちょっと見てきます」 ヴァンの言いつけを破ることになるが、 このままじっと待っているのは堪らない。 「あ……あたしはここに居ていい?」 四つん這いになって 顔だけを外に出していたアラベルは、 不安げに揺れる瞳でリリアを見上げている。 「もちろんです。 アラベルさんはここで火の番をお願いしますね」 リリアはまだ少し湿っているコートに袖を通して、 先ほど明かりの見えた辺りへと向った。   声を張り上げ二人の名を交互に叫びながら、 音を頼りに足を進めた。 だんだんと鮮明に聞こえだす。 ぬかるんだ道を歩く足音のような湿った音と、 もう一つ、 硬質な何かを噛み砕くような音がする。 (噛み砕く……ような?) ドクンと鼓動が高鳴った。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加