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「……ぁ……あぁ……」
手を口元にあてて、
ぶるぶると身体を震わせながら
後退る視線の先には、
浅黒い、
筋肉の盛り上がった、
傷跡だらけの――
恐らくほんの少し前まで
ヴァンのものだった腕が転がっていた。
身体が硬直して、
自分のものとは思えない呻き声を
止めることができない。
(誰か……助けて……)
涙で霞む視線を辺りに彷徨わせる。
それに追い討ちをかけるように
眼に飛び込んできた光景に、
リリアは口を開け放った。
恐怖と戦慄が喉に蓋をして悲鳴さえ出せずに、
ただ呆けたように立ち尽くすことしかできない。
なぜなら
炎に照らされた視線の先に、
黒っぽい体毛で覆われた生き物がいたからだ。
明らかに普通の獣とは違う。
大人の人間のような形と大きさをしているがーー
人間ではない。
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