姿なき声

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(これが妖属――) その中でも下級妖属と呼ばれる妖獣だろう。 逃げなければ殺されると 本能が告げているのに身体が動かない。 こちらに背を向ける格好でしゃがみ込み、 しきりに咀嚼を繰り返している様子から 目が離せない。 突如、 胃の底から酸っぱいものが込み上げてきて、 リリアは慌てて口を押さえた。   けれど、 我慢などできるはずもなかった。   涙を零しながら嘔吐する視線の片隅で、 それはゆっくりと顔をこちらに向けた。 毛むくじゃらの顔に埋もれた二つの小さな眼が、 リリアの双眸を捕らえる。   その瞬間、 耳元まで裂けた口が微笑むように開いて、 まるでそれそのものが 意思を持つ生き物のような赤い舌が、 口元で滴る黒い液体をぺろりと舐め取った。
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