姿なき声

22/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
「……ぅ……ぁあ……」   胃の中のもの全てを吐き出したリリアは、 掠れる声で呻きながら踵を返した。   薪を放り投げて、 泥水を散らしながら逃げ出した。 走って走って走ってーー 幸い追いかけてくる気配がないことには 途中で気がついた。   けれど迫り来る恐怖から逃れるように走った。 いくら走っても この恐怖から逃れることはできないと、 頭では分かっていても、 足を止めたら気が狂ってしまいそうだ。 方向など気にする余裕はなく、 ただがむしゃらに走った。 筋肉が悲鳴をあげ、 跳ね上がった心拍数に心臓が破裂しそうになる。   そしてとうとう、 上がらなくなった足を木の根っこにとられて、 走る勢いのまま 濡れそぼった地面に転がるように激突する。 「いっ……たぁ……」 ぶつけた後頭部を抱え込んで 痛みを堪えていたリリアは、 早鐘を打っていた心臓が何とか鎮まった頃、 初めて小屋を見失ったことに気がついた。  
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加