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暗い森の中を、
周囲の気配に細心の注意を払いながら歩いていると、
身体の疲れ以上に神経が擦り切れるほど消耗する。
大声でアラベルの名を呼び、
助けを求めたいと何度思ったか分からない。
けれど、そんなことをしたら
妖獣に自分の居場所を知らせるようなものだ。
護符を持っているとはいえ、
そんな危険な真似はできない。
緑色に淡く光るあの植物が、
自分に味方してくれると信じて――
気を抜くと震え出す足を奮い立たせる。
どれくらい歩いただろうか。
足は棒のようになり、
靴底から染みてきた冷たい泥水のせいで、
つま先の感覚はとっくになくなっていた。
華奢な身体はぼろぼろで苦痛しか感じない。
ほとんど惰性で足を動かしながら、
かじかんだ指先に息を吹きかけ、
辺りを見回していたリリアの視界が、
暗闇にぼんやりと光る緑色を捕らえた。
近づくほどにそれは
伏せた椀のような形状を現していく。
夕方に見た無人の方ではないことを祈りながら
そちらへ向うと、
植物の光とは違う、
暖かな朱色の明かりが視線の先で揺らめいた。
「……見つけた」
貼り付いていた唇から掠れる呟きが漏れた。
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