姿なき声

24/36

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/421ページ
暗い森の中を、 周囲の気配に細心の注意を払いながら歩いていると、 身体の疲れ以上に神経が擦り切れるほど消耗する。 大声でアラベルの名を呼び、 助けを求めたいと何度思ったか分からない。 けれど、そんなことをしたら 妖獣に自分の居場所を知らせるようなものだ。   護符を持っているとはいえ、 そんな危険な真似はできない。   緑色に淡く光るあの植物が、 自分に味方してくれると信じて―― 気を抜くと震え出す足を奮い立たせる。   どれくらい歩いただろうか。   足は棒のようになり、 靴底から染みてきた冷たい泥水のせいで、 つま先の感覚はとっくになくなっていた。 華奢な身体はぼろぼろで苦痛しか感じない。 ほとんど惰性で足を動かしながら、 かじかんだ指先に息を吹きかけ、 辺りを見回していたリリアの視界が、 暗闇にぼんやりと光る緑色を捕らえた。 近づくほどにそれは 伏せた椀のような形状を現していく。   夕方に見た無人の方ではないことを祈りながら そちらへ向うと、 植物の光とは違う、 暖かな朱色の明かりが視線の先で揺らめいた。 「……見つけた」 貼り付いていた唇から掠れる呟きが漏れた。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加